2007年10月7日日曜日
SENSORS : BANNED BOOKS & OTHER MONSTERS
現在、KLでもっとも活気があるアートセンターといえば、Central Market Annex。Central Marketには民芸品、土産物屋が集まり、中華街から近いという便利さもあって、KLの数少ない観光スポットとして知られているが、Central Market Annexは文字通りその別館。もともとの古い建物を改装し、ギャラリー、小劇場、映画館などの施設が作られている。KLPacよりもポップで、国立美術館NAG周辺よりも自由で、KLCCよりもアーティスティックな、不思議な空間になった。「過激」とも思える企画もあり、マレーシアの表現の幅を拡げている場となっている。
ここで今行われている展覧会がSENSORS : BANNED BOOKS & OTHER MONSTERS。若手女性アーティスト、SHARON CHINの個展。マレーシアの検閲をテーマにした展覧会はCentral Market Annexにふさわしい。
しかし、検閲、発禁に関して、アーティストはどういうイメージを持ち、それをどう表現するものだろう。日本だと、赤瀬川原平の千円札裁判の時に起きたことなどを思い出したりするが、このSHARON CHINの発想には笑った。
1970年以降の発禁処分の件数の線グラフを鉄線で作ってある。そして、先っぽに小さな輪(輪の中を鉄線が通る)が付いた棒で鉄線をなぞり、輪が鉄線に触れたらサイレンが鳴りだすという仕掛けなのだ。日本でもこういうゲームが売られていたでしょう。テレビのお笑い番組でも使われていたのを覚えている。
当たり前だけど、もし発禁件数がほとんどなかったり、一定数で推移していると、サイレンを鳴らさずにクリアーすることは難しくない。ところが、1990年代半ばに件数が激増したりするものだから、山が大きくなってしまい、サイレンを鳴らせることになってしまう。観客は、サイレンを鳴らす度に「引っかかってしまった」(鉄線に、だけど検閲に?)と感じるわけだ。
もうひとつのインスタレーションは、暗闇の中を観客が懐中電灯で照らして見る。真っ暗になった部屋の壁に、扉が付いた小振りの木の箱(鍵箱というのかしら、鍵をたくさん収納する箱がありますよね。あんな感じ)がくっ付いている。扉を開けると、中には発禁になった書籍の情報(タイトルとか年度とか)が書かれた紙の上に、古今東西の妖怪が描かれているというもの。10余の箱の中に、どういうわけか、日本の妖怪が3点あった(ちなみに、般若と餓鬼と、ろくろ首)。
平和で落ち着いた国に見えるマレーシアだが、言論の自由という面では非常に不自由な国であり、文学、映像、美術、演劇、舞踊等々ジャンルに限らず、アーティストはどこかで権力の存在を意識しないではいられないだろう。ちょうど、kakiseniに、Kathy Rowland(kakiseniの創立者の一人)のPlaying Catch Up: Recent Censorship of Culture and the Arts in Malaysiaというレポートが載っていて興味深い。最近では特に宗教(イスラム)を巡る問題がセンシティブな問題となっているが、権力が直接検閲するだけでなく、一般の市民、メディア、市民団体などによる「検閲」の事例が多くなっているという。そして、そもそもこのような宗教的な不寛容が強くなったことの背景には、イスラム政党であるPASに政治的に対抗するために取られたUMNOのこれまでの政策があるのだという。しかし、この報告に紹介されているだけでも、どんなに「検閲」がしばしば発生しているのかにびっくりする。検閲される方に妖怪がいるのか、それともその逆なのか。果たして。