2007年10月11日木曜日

Mukshin、フランス、韓国に配給

"'Mukhsin' goes to France, S. Korea
Mukhsin, the third feature film by director Yasmin Ahmad, will be distributed in France and South Korea next year."
The New Straits Times Online......:

ヤスミン監督のMukshinが来年フランスと韓国での配給が決まったという記事がNew Straits Timesに出ています。

これはマレーシア映画では初めてのこと。具体的には、フランスは映画での上映、ビデオ販売、テレビ放映の権利、韓国はテレビ放映の権利を獲得したとのこと。

ちなみに、日本ではどうかというと、Mukshinは去年の東京国際映画祭のマレーシア映画特集「マレーシア映画新潮」で上映され、その後、エースジャパンで25,000円(税込・送料別)で貸し出されています。

詳しくは、こちらのページの、「映画の貸出」→「貸出作品リスト」に載ってます。
http://www.acejapan.or.jp/film/

2007年10月7日日曜日

SENSORS : BANNED BOOKS & OTHER MONSTERS


現在、KLでもっとも活気があるアートセンターといえば、Central Market Annex。Central Marketには民芸品、土産物屋が集まり、中華街から近いという便利さもあって、KLの数少ない観光スポットとして知られているが、Central Market Annexは文字通りその別館。もともとの古い建物を改装し、ギャラリー、小劇場、映画館などの施設が作られている。KLPacよりもポップで、国立美術館NAG周辺よりも自由で、KLCCよりもアーティスティックな、不思議な空間になった。「過激」とも思える企画もあり、マレーシアの表現の幅を拡げている場となっている。

ここで今行われている展覧会がSENSORS : BANNED BOOKS & OTHER MONSTERS。若手女性アーティスト、SHARON CHINの個展。マレーシアの検閲をテーマにした展覧会はCentral Market Annexにふさわしい。

しかし、検閲、発禁に関して、アーティストはどういうイメージを持ち、それをどう表現するものだろう。日本だと、赤瀬川原平の千円札裁判の時に起きたことなどを思い出したりするが、このSHARON CHINの発想には笑った。
1970年以降の発禁処分の件数の線グラフを鉄線で作ってある。そして、先っぽに小さな輪(輪の中を鉄線が通る)が付いた棒で鉄線をなぞり、輪が鉄線に触れたらサイレンが鳴りだすという仕掛けなのだ。日本でもこういうゲームが売られていたでしょう。テレビのお笑い番組でも使われていたのを覚えている。
当たり前だけど、もし発禁件数がほとんどなかったり、一定数で推移していると、サイレンを鳴らさずにクリアーすることは難しくない。ところが、1990年代半ばに件数が激増したりするものだから、山が大きくなってしまい、サイレンを鳴らせることになってしまう。観客は、サイレンを鳴らす度に「引っかかってしまった」(鉄線に、だけど検閲に?)と感じるわけだ。

もうひとつのインスタレーションは、暗闇の中を観客が懐中電灯で照らして見る。真っ暗になった部屋の壁に、扉が付いた小振りの木の箱(鍵箱というのかしら、鍵をたくさん収納する箱がありますよね。あんな感じ)がくっ付いている。扉を開けると、中には発禁になった書籍の情報(タイトルとか年度とか)が書かれた紙の上に、古今東西の妖怪が描かれているというもの。10余の箱の中に、どういうわけか、日本の妖怪が3点あった(ちなみに、般若と餓鬼と、ろくろ首)。

平和で落ち着いた国に見えるマレーシアだが、言論の自由という面では非常に不自由な国であり、文学、映像、美術、演劇、舞踊等々ジャンルに限らず、アーティストはどこかで権力の存在を意識しないではいられないだろう。ちょうど、kakiseniに、Kathy Rowland(kakiseniの創立者の一人)のPlaying Catch Up: Recent Censorship of Culture and the Arts in Malaysiaというレポートが載っていて興味深い。最近では特に宗教(イスラム)を巡る問題がセンシティブな問題となっているが、権力が直接検閲するだけでなく、一般の市民、メディア、市民団体などによる「検閲」の事例が多くなっているという。そして、そもそもこのような宗教的な不寛容が強くなったことの背景には、イスラム政党であるPASに政治的に対抗するために取られたUMNOのこれまでの政策があるのだという。しかし、この報告に紹介されているだけでも、どんなに「検閲」がしばしば発生しているのかにびっくりする。検閲される方に妖怪がいるのか、それともその逆なのか。果たして。

釜山国際映画祭でマレーシア映画特集

昨年の東京国際映画祭に続けとばかりに、今年の釜山国際映画祭でもマレーシア映画が特集上映されている。 Three Colors of New Malaysian Cinemaという特集タイトル。

上 映作品は9本。うち4本がWorld Premier上映。その中には、James Leeの新作Waiting for Loveや、個人的に楽しみにしているもうすぐマレーシアでも劇場公開のFlower in the Pocketも含まれている。このFlower in the PocketはNEW CURRENTS AWARDにもエントリーしている。果たして、去年Tan Cui Muiに続くことができるか。HPに曰く、
Special Programs in Focus
Currently, Malaysia is witnessing the appearance of a new generation in filmmaking. Owing to the spread of digital technology, this new generation reflects the uniqueness of the multiracial and multilingual Malaysian society. The films are produced in multi or intersecting languages, and deal with various issues and topics."
詳しくはこちら。





2007年10月6日土曜日

マレーシアで初めての3Dアニメ来年公開。Geng: The Adventure Begins

マレーシアで初めての3Dアニメ来年公開が決まった。タイトルはGeng: The Adventure Begins。

  • Les’ Copaque Production Sdn Bhd制作
  • Mohd Safwan Abdul Karim 監督
  • Muhammad Usamah Zaid アニメーション監督
  • Mohd Nizam Abdul Razak マーケッティング担当  24歳!

制作費は4百万リンギというから、1億5千万円近く。マレーシア政府から相当な額の支援を得たというから(科学技術省からRM百万、観光省からRM20万)、政府としてもコンテンツ産業育成に力を入れているということなのだろう。

ロシアのVoxell Groupからは15カ国への配給のオファーがあったり、中国ベースのZhongna Animation Groupから次回作の共同制作のオファーがあったり、なかなかマーケットの反応もいいらしい。

6人の子供達がKampong Durian Runtuhの秘密を探るという話。Upin Ipinという双子のキャラクターは、テレビのアニメシリーズにも既に登場している。トレーラーがこのサイト(http://www.gengthemovie.com/)から見られるけど、結構かわいい。果たして、マレーシアオリジナルの国民的キャラクターが誕生するだろうか。

映画は儲からない

ちょっと古いネタだけれど、8月9日に掲載されていたThe Malay Mail 恒例の調査によれば、今年の1月から上映された映画11本のうち、黒字になったのは3本だけだそうだ。結果は次の通り。

Syaitan

  • 制作費:1,260,000
  • チケット収入:490,000
  • 合計:▲290,000

Qabil Khusry Qabil Igam

  • 制作費:2,200,000
  • チケット収入:1,500,000
  • 合計:▲590,000

Puaka Tebing Biru

  • 制作費:1,280,000
  • チケット収入:1,000,000
  • 合計:▲690,000

MukhsinYsmin監督)

  • 制作費:1,000,000
  • チケット収入:1,900,000
  • 合計:140,000

Jangan Pandang Belkang

  • 制作費:1,700,000
  • チケット収入:6,400,000
  • 合計:2,100,000

Zombie KG Pisang

  • 制作費:1,200,000
  • チケット収入:2,300,000
  • 合計:170,000

SUMO-LAH(マレーシア初の相撲スポコン映画)

  • 制作費:2,950,000
  • チケット収入:1,190,000
  • 合計:▲2,250,000

Waris Jari Hantu(今年のマレーシア映画祭最優秀監督賞、男優賞)

  • 制作費:2,200,000
  • チケット収入:1,700,000
  • 合計:▲1,100,000

Cinta yang Satu

  • 制作費:1,700,000
  • チケット収入:66,000
  • 合計:▲1,300,000

Diva

  • 制作費:2,960,000
  • チケット収入:300,000
  • 合計:▲2,790,000
合計の金額は、税金等諸経費を払ったり、還付を得たりという手続きを経た後の想定値。ただし、あくまでも収入はチケット収入のみを基準にしているので、スポンサー収入とかDVD,VCD売り上げ収入は含まれていない。だから、実際の収支とは随分違う場合もあるだろうということ。

しかし、ホラー映画にまじってMukhsinとSUMO-LAHは健闘した。Mukhsinは黒字だし、SUMO-LAHは制作費が大きすぎて黒字にはなっていないけれど、チケット収入では4番目。きっとたくさんスポンサーがついていたから、ある程度何とかなっているのではないのだろうか。とにかく、全体としてあまり信用できる数字ではないような気がする。

なお、
SUMO-LAHの原作・脚本をしたKubotaさんのブログによると、SUMO-LAHは福岡映画祭で上映されたとのこと。おめでとうございます。 http://japanmalaysia.at.webry.info/

2007年10月2日火曜日

50 Ways to Live in Malaysia その2

今回の展覧会、50 Ways to live in Malaysiaはマレーシア独立50周年企画で、マレーシアの50人のアーティストによる、50の作品を展示したもの。タイトルはポールサイモンの50 Ways To Leave Your Loverをもじったものだそうだが、独立後のマレーシアのアート界のWho’s Whoとか、クロノロジーを作ろうとしたものではなく、またマレーシア美術の全貌を明らかにする、というようなものでもない。マレーシアに生きることというテーマについて、それぞれの作家がどう表現しているかを示することで、マレーシア美術の50年の流れを表したいのだ、というような控えめなことがカタログには書かれています。実際には、キュレーターの意図とは反して、私のようなマレーシア美術ビギナーには、傑作が並べられたこの展覧会はWho’s Whoを見ているようなもので、便利な展覧会でもありました。

入り口を入ると正面にBayu Utomoの、ついこの前Wei Lingギャラリーの新作個展に出品されていた、イギリスとマレーシアのイメージが左右に対比されている大作が一番手。

左手にはYEE I-LANNの写真。マラッカの写真館で撮影されていた記念写真をデジタル化し、子供の誕生日とか結婚式とか卒業式とか、テーマ毎に100枚並べるシリーズ。これは、確かマレーシアに来たばかりの頃、ペトロナス・ギャラリーの現代写真展で見たことがある。

うれしかったのは、フェミニズムアーティスト(と呼ばれているのか?)ENG HWEE CHUと、25歳という若さであっという間に亡くなった伝説のアーティストZULKIFLI DAHLANの作品の実物を見られたこと。特に、ZULKIFLI DAHLANは画集で見て、前から気になっていただけに、作品を見つけたときには興奮しました。かなり色が落ち、彼の作品に決まって登場する裸体の人々の輪郭もはっきりしないのだけど、これはもともとなのだろうかしら。1970年の作品とあるから、彼の18歳のときの作品ということになる。71年にはメダンで美術を勉強と資料にあるから、メダンに行く前の作品なのだろうか。いずれにしても、かなり初期の作品なのだろう。マレー語のタイトルは「ある家の真ん中の部屋」という意味だが、わけがわからなくて奇妙だけど、古代人の壁画を見ているような感じがする。






MY LIBERTY by ENG HWEE CHU


















Ruang Tengah Sebuah Rumah by Zulkifli Dahlan









その他にも傑作が並んでいたわけだが、実はそのうちのかなりの作品は当国のアートコレクターとして名高いPakhruddin氏のコレクションから借り出されたもの。本業弁護士のPakhruddin氏は自分のオフィスの下のフロアーに私設ギャラリーを作っていて、そこに自分のコレクションを保管しているのだけれど、以前そこにお邪魔したことがあって、そのとき見た作品と、またこの展覧会で再会することができました。美術雑誌を見ると、この私設ギャラリーは公開しているそうです(ただし要予約)。

ペトロナスギャラリーはHari Raya明けには、YEE I-LANNを含む、女性作家の展覧会 Out of the Mouldが始まります。これも楽しみです。

50 Ways to Live in Malaysia その1


GALERI PETRONAS - Exhibitions:
"50 Ways to Live in Malaysia : Contemplating 50 Years of Nation Building Main Gallery
21 Aug 2007 - 30 Sep 2007"



「館」と付くところなら美術館と水族館好きの私にとって、KLはあまり楽しめる「館」がない。水族館は最近ツインタワーの地下にできたのだがまだ入っていない。何度か行ってみたのだけれど、長蛇の列にあきらめて帰ってしまった。日本にいる時と違って、すっかり忍耐心がなくなってしまったようです。

美術館はといえば、小さなギャラリーは別にすると、そもそもほとんど存在しません。公的な美術館としては国立美術館(略称NAG)、イスラム美術館があるが、NAGの方はマレーシア観光年だというのに、今年に入ってずっと改修工事のため休館。最近再オープンしたようだけれど、まだ大した企画はやっていないようです。先日、リニューアル後の様子を覗きに行ったら、入り口を入ってすぐ右手にある今までメインのギャラリーだったところが巨大なオフィスになっていて驚きました。全体に色彩が白と青のツートンカラーになり、国立美術館ではなくて警察署だとも言われています。(マレーシアでは警察関係の施設は白と青のツートンカラー)それに比べるとイスラム美術館はとても美しく、なかなか楽しいところです。いつ行ってもガラガラでのんびりできるというのもいい。面白い企画展も時々やってます。ミュージアムショップが充実しているというのもいい。間違いなく、マレーシアの美術館、博物館の中ではダントツに品揃えがいいショップです。

しかし、KLで元気があるギャラリーは何と言っても民間ギャラリーでしょう。VALENTINE WILLE FINE ARTWei-Ling Galleryという個人がオーナーのギャラリーは、マレーシアの現代作家を中心にした個展、グループ展を常時企画しています。

この二つのギャラリーについてはまたどこかで書くことにしますが、今日お知らせするのはマレーシアで最もお金持ちの国営石油会社、ペトロナスが作ったギャラリーGallery Petronas。ここで開催されていた展覧会 50 Ways to live in Malaysiaを見てきました。

Gallery Petronasはマレーシアのシンボル、ツインタワーの足下にある巨大なショッピングセンターの中にあります。ツインタワーは、日本で言えば富士山と東京タワーと新幹線を合わせたような(ちょっと古いかな)唯一無二のナショナルアイコンになっていますが、そもそもはペトロナスの本社ビルで、ペトロナスはオフィスの他に、コンサートホールDewan Filharmonik Petronas、科学博物館、そして美術館と三つの文化施設を持っているのです。

Gallery Petronasは最近になって館長が代わり、活動がますます活発になりました。現在の館長Tengku Nasariha Tengku Syed Ibrahim女史は以前は科学博物館の館長をし、コンサートホールの仕事にも関わっていただけあり、アートマネージメントの経験が豊富。今年になってからも、大御所Latiff Mohidinの新作個展に始まり、Eddin Khooのキュレートによる報道写真展Photojournalism and the Iamaging of Modern Malaysia、日本の田中まさとの動く彫刻展、マレーシアを代表する小説家(『娼婦サリナ』)Aamad Saidのドローイング展など、ユニークな企画が続いています。つい最近は、アーティストであり美術界のオピニオンリーダーだったPiyadasaの死を追悼し、急遽回顧展を実施するなど機動力もあります。カタログが充実しているのもうれしい。

(続く)